春食べる草。
はじまりは、たぶん台所です。春、やわらかい新芽を摘んで、餅に搗き込む。 草餅の緑と香りは、よもぎのものです。 「餅草(もちぐさ)」という別名があるくらい、この草は食べものとして暮らしにいました。
特別な薬草園ではなく、道端や土手や畑のへりに、あたりまえに生えている。 摘めば、また生えてくる。特別ではないからこそ、暮らしの中に残ってきた——それがよもぎという草です。
湯浸かる草。
よもぎは、湯にも入りました。乾かした葉を湯船に浮かべる、よもぎ湯。 地方によっては、季節の節目の風習として伝えられてきました。 いまも銭湯の変わり湯や、よもぎ蒸しという形で、蒸気と香りの草として生きています。
特別ではないから、
残ってきた。
火燃える草。
そして、よもぎの物語のいちばん深いところに、お灸があります。
よもぎの葉の裏には、白い綿毛が生えています。乾かした葉から、この綿毛だけを丁寧により分けたものが「もぐさ」。 お灸は、このもぐさを燃やして、 ツボを温める養生法です。
松尾芭蕉は『おくのほそ道』の旅立ちに、「三里に灸すうるより」と書きました。 長い旅に出る前に、足三里にお灸をすえる。それくらい、お灸は旅人と生活者の、あたりまえの支度でした。 台所の草と、治療の草が、同じ一本だった——ここが、よもぎの物語のいちばん面白いところです。
いま育てる草。
よもぎの仲間(ヨモギ属)は世界中にあり、ハーブとして、薬草として、それぞれの土地の暮らしを支えてきました。 日本のよもぎは、その中でも「食べて、浸かって、燃やす」という使われ方の幅広さで、めずらしい草です。
わたしたちYOMOGI BASEは、このよもぎを信州の畑で自ら育て、研究しています。 道端の草の物語を、次の暮らしにつなぐこと。この研究室も、その仕事のひとつです。 研究室についてのページに、続きを書いています。